River in the Morning

川面にたちこめる朝靄。色が失せ、グレイに染まる風景。 心の原風景のひとつ。そんなものに、私はなりたい。

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雲の翼

つばさは空を飛んでいた。
見下ろす町並みは、見慣れない風景なのに懐かしさを覚える。
広がる黄緑色の畑。商店街だろうか、広い通りと、住宅地。その先には大きな建物がたくさんあるのが見えた。
だが、のんびりしていられる訳ではなかった。
つばさは自分が追われていることを知っていた。
眼には見えないが、彼らは確実に近付いてきている。
彼らはつばさの命になど執着はない。目的を遂げるためならば、平気でつばさを撃ち落とすだろう。
つばさは必死だった。
死にたくはなかった。

なぜ追われているのかと言えば、つばさの背にあるものが原因だった。
翼。
つばさが空を飛ぶことの出来る理由。一対の、つばさの背より少し大きいそれは、薄く曇った日の空のような、白に限りなく近いグレイだ。

それがあるから、つばさは追われていた。
そして、それがあるから、つばさは逃げることが出来ていた。

だが、つばさは追い詰められていた。
逃げ続けて体力も底をついている。へろへろの体で辿り着いたのが、長いこと帰っていなかった、故郷の街だった。
ここに逃げてきたからといっても、頼れる知人がいるわけでもない。
隠れ家があるわけでもない。
それでも翼は故郷を目指して飛んでいた。
追いつかれ、振り切り、それを繰り返しながら、やっとの思いで辿り着いたのだった。

背後に、影が差した。
気付いて、咄嗟に左に避けたが、右の翼を矢が掠めた。
痛みに悲鳴を上げたが、追っ手はそんなことに頓着しなかった。
コウモリのような形をしたロボットは、続いて矢を放とうと、狙いをつけていた。
5体。怪我をした翼では、振り切れるかどうかは怪しい。
だが、武器を持たないつばさには、戦うことはそれ以上の自殺行為だった。

出来る限りのスピードで、コウモリ達の放つ矢を避けながら飛ぶ。
しかし避けるための動きが必要な分、つばさの方が遅くなるのは仕方のないことだった。
このままでは、いずれ追い詰められて撃ち落とされるだろう。
それならば。

突然、急降下したつばさに、コウモリ達は反応できなかった。
重力による加速も利用して、ぐんと引き離す。
地上すれすれで、翼を強く打ち鳴らして落下速度を落とす。
かなりのスピードが出ていたために、翼への負担もかなりのものだ。
付け根が痛んだが、今それを構っているヒマはなかった。

降りたのは商店街の通りだった。
買いものの途中だったのだろうか、人々がぽかんと翼をみている。
つばさは人々の反応など目にも留めず、すぐさま地面と平行に飛び始めた。
向かうのは北の方角だ。大きな建物の見えた方角。あそこならば、隠れるところも多いだろう。
車とまでは行かないまでも、競技用自転車ほどのスピードは出ている。
耳の傍で、風がごうごうとうなっていた。

コウモリ達も引き離されたくらいで諦めることはなかった。
追ってきて、今度は上空から矢を射かける。
だが、一般市民に被害が出ることを懸念しているのか、その矢はそれまでよりもぐっと少ない。
時折翼でたたき落とし、ほとんどは避ける。
5対1の圧倒的な数の不利がありながらも、つばさはよく保っていた。
それでもへとへとに疲れていた体には、すぐに限界が訪れた。
矢を避けきれず、今度は左の翼に当たる。
悲鳴とともに、ぐらりとバランスを崩したつばさに、追い打ちを掛けようとコウモリ達は一斉に矢を射かけた。

しかし、矢はつばさには届かなかった。
払ったのは、日本刀。それを持っていたのは、短い黒髪の女性だった。
つばさよりも5歳は年上だろう。成熟した女性の体は、しかし引き締まった戦士のものだった。
「大丈夫ですか」
落ちかけたつばさを受けとめ、声を掛けたのは、つばさと同年代の少年だった。
顔立ちは整っていて、かっこいいというよりはかわいいと言われそうだ。
しかしその目は厳しいとすら言えるほど真剣で、体格の変わらないつばさを受けとめられたことから、体もしっかりと鍛えられていることが伺えた。
「先に行きなさい」
「はい」
短い会話で意図が通じたらしい。女性は刀をコウモリ達へ向け、少年はつばさの腕を掴むとすごいスピードで走り始めた。
彼の足にはローラースケートに似た物がついており、それがすごいスピードのもとになっていた。

つばさは混乱していた。彼らに見覚えはない。しかし、行動からは味方のように思われた。
だが、つばさには味方の心当たりがない。
少年達が何者なのか、何処へ向かっているのか。
聞こうにも、素晴らしいスピードを見せる少年について飛ぶのが精一杯で、とても言葉を発する余裕はなかった。

辿り着いたのは、つばさが目指していた大きな建物が建ち並ぶ一角・・・団地だった。
「あっちです」
すこしスピードを緩めた少年が、奥の方にある一角を指した。
「中に入れば一息つけます。リーダーがいますから」
「あ、あの・・・誰なんですか」
タイミングが悪かったかも知れない。
つばさは少年は誰かと聞いたつもりだったが、これではリーダーが誰かと思われただろう。
だが、リーダーと呼ばれる人間が誰なのかも、つばさの知りたいことの一つだった。
「安心して。僕らはあなたの味方です」
少年はにっこり笑ってみせたが、つばさの不安は晴れなかった。
それでも、長い時間飛び続けてへとへとのつばさには、手を振り払うことも出来そうになかった。
少年の案内に従って建物の一つに入る。中は狭く薄暗い階段になっていて、少年はソーラーのついた靴のままで器用に階段を上っていった。
飛びっぱなしで力の入らない足に活を入れながらついていくと、少年は3階で止まった。
扉には標識も何も掛かっていない。年季の入ったその金属製のドアを、少年は奇妙なリズムで叩いた。
「翼を連れてきました」
名を知っているのかと、つばさはぎょっとした。ぎいと音を立てて開いた扉からは、がっしりとした体格の男性が顔を覗かせていた。
「やあ、つばさ。ひさしぶり」
人を安心させるような、おおらかな笑顔。
その顔には見覚えがあった。
つばさの胸に、表情に、安堵が満ちた。

「とうさん!」

彼の背には、つばさよりも大きな、黒の翼があった。





ファンタジー風味。続きなんか考えてません。
設定は一応考えてあるんですが・・・見たい人は「続きを読む」でどうぞ。
設定マニアなので設定だけは細かいですよ。

《雲の翼・設定》

・つばさ
男。身体年齢は15歳。精神年齢は10歳前後とみられる。
人造人間〈天使〉シリーズのNo.1(プロトタイプ)。翼は白に見えるくらい薄いブルーグレー。
黒い翼の男の、死亡した息子を元に作られ、彼に養育された。そのため、男を「とうさん」と呼ぶ。
一般常識には疎い。
自分と父親は〈天使〉という種族であり、それゆえに翼が生えているものだと思っている。

・黒い翼の男
男。40歳代。人造人間〈天使〉シリーズの実験体。
家族(妻、娘、息子)とともに事故に遭い、その際死にかけた体を自分と息子の命と引き替えに実験体として提供した。(妻と娘は死んだ)
実際は息子はすでに死亡しており、彼はそれと知らず全てを忘れた(と思わされていた)つばさとともに研究所で暮らしていた。
ある時迂闊な研究員の雑談から、真実を知る。
つばさの他にも妻と娘が〈天使〉シリーズに作られていることを知り、〈天使〉シリーズの研究を止めさせるため研究所を脱出、ゲリラ活動に身を投じた。
現在はゲリラ活動のリーダー。

・〈天使〉シリーズ
翼を持つ人間の姿をした、人造人間。
兵器として作られており、飛行能力を生かした奇襲、偵察、容姿による人心掌握などが目的。そのため見目の良い人間が元にされる。
身体的能力も通常の人間とは比べものにならない。
つばさ以外の〈天使〉には洗脳処理がなされ、命令に従うロボットのような扱いを受けている。
黒い翼の男の家族以外にも、事故などで死亡した人間を使って〈天使〉
が作られている。

・刀の女性と、ローラースケートの少年
ゲリラのメンバー。

・ゲリラ
〈天使〉シリーズの製造・使用を行っている軍に、人道的観点や家族を使われた恨みなどから反対するひとびとが集まってできた。
黒い翼の男をリーダーとしている。


軍国主義、というか軍が一番偉い国。
つばさが飛んできた街は黒い翼の男とその家族の住んでいた町、つまりつばさの元々の故郷。
黒い翼の男が研究所から逃げ出す前に、他の研究所に移送されたつばさを、ずっと探していた。
つばさのいた研究所をゲリラが襲撃し、つばさは連れ出されたが、連れ出したゲリラが軍に追いつかれ、つばさに「故郷の街」への地図と道案内用ロボを渡して逃げさせた。
「故郷の街」まで5日間ほど飛びっぱなしで、案内ロボは途中で攻撃からつばさを庇って落ちた。


・・・設定が生きてないのはわざとです。わざと。
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