River in the Morning

川面にたちこめる朝靄。色が失せ、グレイに染まる風景。 心の原風景のひとつ。そんなものに、私はなりたい。

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ノイズ

悲しいお話です。









僕はそのニュースを、まっしろい病室の中で、現実感のないまま聞いた。
テレビの中に映っている、見慣れない、けれど見慣れたはずの車は、原型のわからないほどひしゃげていた。


法的な手続きとか、そういうものを取り仕切ってくれたのは、父さんの友人の相良さんだった。
弁護士の相良さんは、父さんが法的トラブルを抱えたら必ず力になる、と約束していたらしい。
相良さんは「葬式をするなんて約束はしてないんだがな・・・」と渋い顔をしていたが、僕はとても助かります、とお礼を言った。
実際、僕と弟は、未成年者(こども)でしかないし、弟に至ってはずっと泣いてばかりいる。
なにしろ未だ6歳だ。両親が死んでしまったことをわかっているだけでも、マシかと思った。

通夜には、会ったことのない親戚とかも多く来ていた。
ニュースで事故のことが報道されたためだろうか。
僕は、遺影をもって、ぼんやりと挨拶を受けていた。
まるで夢みたいに現実感がない。
ただ、相良さんに教えてもらって、喪主は僕がした。
頭や腕に包帯が巻かれたままだったけれど、頭を下げるくらいなら出来る。
一目で怪我人とわかるからだろうか、どの人も話は手短で、何人かは挨拶と名刺を渡すだけで去っていった。
けれど、僕はずっと、視線を感じていた。
不特定多数の・・・敢えて言うならば、ここにいる大多数からの。
ノイズがうるさい。これは人々の囁く声だろうか。それとも、朝から降り出しそうだった雨が、ようやく降り出したのだろうか。
そのさあさあという音に、ほんの数日前のことでしかないあの日の記憶が蘇る。

その日は、家族でプールに行った帰りだった。波のプールや流れるプールにめちゃくちゃはしゃいで、さんざん泳いで、僕らはすっかり疲れ果ててしまっていた。
朝はいい天気だったのに、帰りの車に乗り込んだときにはぽつぽつと雨が降り始めていた。
車の中で、弟はすっかり眠り込んでしまっていた。僕も疲れていたから、後部座席でうとうととしていた。
車の低い駆動音と、わずかな揺れに、次第に意識が虚ろになっていった。
閉じてしまった目蓋の向こうに聞こえるのは、雨が車を叩く音。前の席で、僕らを起こさないように囁き声で話す両親の声。
そのさわさわというノイズに、安心しきって、眠りの海に落ちかけた、その時だった。
があん、と、破壊的な音とものすごい衝撃が僕らを襲った。
何も考えられないほど激しくシェイクされた後、もう一度強い衝撃。
僕の意識があったのは、そこまでだった。

病院で目覚めた僕は、自分たち兄弟が孤児になったことを知った。
原因は、居眠り運転で逆走してきたトラック。正面衝突だったために、車の前席はすっかりつぶれていた。
そのため、ようやっと外に出された両親は、人の形をしているとは言い難かったそうだ。
身元確認などは、相良さんがやってくれたらしい。
僕らには見せたくないくらい、ひどい有様だったのだろう。
でも、それでも僕は会いたかった。僕の家族なのだから。

子供であることがこんなにも悔しかった事はなかった。
僕がもっと大人であったなら。
しかし、僕らが助かったのは体の小さい子供だったから、すきまに入って助かったのだとも聞いた。
大人であったなら助からなかった。しかし、子供であるから何も出来ない。
これではどちらでも一緒じゃないか。
僕は唇をかみしめた。

相良さんに我が侭を言って、火葬の前に両親の顔を見せてもらった。
せめて最後に一目、両親の顔を見たかったのだ。
黒く金縁のつけられた棺の上部に、静かに開けられた窓からのぞく。
薄暗がりの中だったが、白い顔がぽっかりと浮かんで見えた。
ひどい有様になっていることを覚悟していたが、顔の部分だけは整えたのだろう。体は布で隠されているものの、身なりを整えられて棺に入れられた2人の顔は、生前と変わらず優しそうに見えた。
それでも、その顔は僕に痛切に思い知らせた。
死んだのだ。
死んでしまったのだ。
明るい父さんと、優しい母さん。ふたりはもう、僕に、弟に、笑いかけることは無い。
数日前まで、こんなこと思いもしなかった。
いなくなるなんて、思いも寄らなかった。
どうして。
なんで。
そんな思いばかりがぐるぐると全身をかき回し、気付けば僕は泣いていた。
父さんが入れられた箱にすがりつき、呼吸困難になるほど泣いた。

葬式で、目を真っ赤に腫らした僕に、周囲は同情的だった。
弟も、しゃっくりをあげながら僕の手を握りしめている。
ゆっくりと空へ上がっていく煙。それは、薄く広がった雲と溶け合っていくようだった。
ぽつりと、水滴が額を打った。
「涙雨だな」
相良さんが、煙草をくゆらせながら僕らの頭を撫でた。
「空が、お前達の為に、お前達の両親のために、泣いてくれてるんだ」
「おそらが?」
弟は真っ赤な目を見張って、聞き返した。
僕はそっと、目を閉じる。

さあさあというあのノイズが、また、聞こえてきた。





世の中理不尽がやっぱり多すぎます。
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