River in the Morning

川面にたちこめる朝靄。色が失せ、グレイに染まる風景。 心の原風景のひとつ。そんなものに、私はなりたい。

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友人は宇宙人 1


僕の友人の話をしよう。
あいつとは大学に入ってから知り合った。結構ノリのいいやつで、話していても面白かった。学部が同じ事もあって、よくつるんでいた。
僕は自分がごくごく普通の一般人だと自覚している。特に飛び抜けた能力があるわけでも、極端に変な性格をしているわけでも無い。
親しい友人でもなければ、同じクラスの同級生でも、卒業後に顔と名前を覚えているか怪しいくらいのものだろう。
けれど、あいつは違った。

ある日、学内のオープンスペースで話をしていたときのことだ。
そこは学生がよく暇な時間にたむろするところで、喫煙スペースとしてベランダが付いていた。
その日は天気も良かったので、煙草を吸うわけでもなく外に出た。ベランダの手すりに持たれて、下を通る人をぼんやり見ながら、話をしていた。
何を話していたかは覚えていない。多分、他愛もないこと・・・その日の授業の内容だとか、教授のうわさ話だとか、そんな事だったんじゃないかと思う。
突然、あいつが聞いた。
「なあ、ここって何メートルぐらいだろうな」
「何が?」
僕は聞き返した。何について言っているのか、全く脈絡がなかったのだ。あいつは「高さ。二階だし・・・3メートルくらいか?」と、じっと地上を見ながら言った。
僕も改めて下を見る。それなりに高さはある。そんなに大きくはない木ぐらいだろうか。
「そうだね。そんくらいじゃないかな」
だからなんだ、とあいつを振り向くと、足が見えた。今さっきまでもたれていた手すりの上によじ登ったのだ、と理解した時には、あいつは下に飛び降りていた。
「っおい!」
きゃあ、と悲鳴。授業の合間でもなく、それほど人通りがなかったのも幸いだった。
あいつはしっかりと無事に、着地していた。しゃがみ込んだまましばらくじっとしていたが、ゆっくり立ち上がり僕の方を見上げると、「悪いけど、荷物もってきてくんない?」と、いつもと変わらぬ調子で言った。
大急ぎで中にとって返し、テーブルに放り出してあった2人分の鞄をひっつかむと、階段を二段とばしで降りた。
おそらく僕は顔面蒼白になっていただろう。肝を冷やすってこういうことなのか、と後で思い返して納得したものだ。
あいつのところに着いたとき、あいつはぼんやりと空を見上げていた。
いつもぼんやりしていることの多いヤツだが、その時はそのぼんやりした、感情の読めない表情が怖ろしく、また腹立たしかった。
さんきゅ、と振り向いていったのがあんまりにもいつも通りだったので、僕は逆上した。
「何考えてんだよ!馬鹿かお前は!」
普段僕は怒鳴るようなことをしない。目立つのは苦手だし、誰かに対して怒りを感じたのも、久しぶりだった。
けれどあいつは、飄々とした態度のまま、「実験」と一言いった。
「二階からじゃ、やっぱ飛び降りても死ねないな」
その落ち着き払った口調に、僕は心底ゾッとした。
死んだらどうするんだとか、怪我するだろとか、そんな言葉すら出て来ない。喉が渇いて貼り付いたみたいに感じられた。
「じゃあ、これからバイトだから」
また明日な、といつも通りの調子で手を振って、あいつは鞄を持って歩いていった。
ひとり取り残された僕は、その背中をみて思った。

「あいつは、宇宙人だ」


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微病弱・酒煙草苦手・甘味党・文系新米教師。
日常的に脳みその中で言葉をこねくり回しています。

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